JOURNAL
変形地の家 03
40坪弱の実家敷地に
建てた二世帯住宅
変形地の家 二世帯の家
祖父母・両親・子で暮らしていた家は
扇形の変形地に建っていた
造船業や海軍の町で知られる呉の港を臨む団地で育ったS様。かつては祖父母、両親、きょうだいで賑やかだったご実家も40年が経ち、お母様が一人で住んでいらっしゃいました。
ご実家の敷地は、扇の形をした珍しい変形地で約40坪。二世帯住宅にするのに充分な敷地面積とは言えませんが、お母様とご家族が同居するために建て替えることを決意されたS様邸をご紹介します。
付かず離れずながら
完全分離型の二世帯住宅に挑戦
今回は何かと初めての挑戦になりました。一つ目は扇の形をした変形地だったこと、二つ目は40坪の敷地に二世帯住宅を建てること、さらに車が2台停められるようにすること(軽自動車なら3台)。難題ではありましたが、お母様とご家族がお互いの生活を守りながら仲良く過ごせる家をめざしました。
(ジューケン 一級建築士/吉川)
1階はお母様、
2・3階は4人家族の空間
マンション暮らしだったご家族がお母様と同居しようと思われたきっかけを教えてください。
この団地に移って私で3代目なんですが、ご先祖様が買ってくれたこの土地に慣れ親しんでいますし、親戚も訪れるし、子ども達にふる里を作ってやりたいという思いもありました。一人で暮らす母のことも心配だったので。
奥様は同居することに不安はありませんでしたか?
私に何ができるんだろう? 義母にどう接したらいいのか? という不安はありました。
祖父母と同居していた母を見て、しんどそうだなと子どもながらに感じていました。それはお風呂やトイレ、台所も居間もすべてが共用だったことが大きいと思います。だから、独立型の家に建て替えようと決めました。
なぜジューケンに依頼されたのですか?
近所にジューケンさんが建てられた家があったんです。しかもジューケンさんは変形地が得意な注文住宅メーカーだと聞いていたので。
変形地と言っても、扇形というのは珍しいですよね?
扇の形をした40坪、そこに二世帯で住むという難題が重なりました。当社としても初めて手がける扇形でした。
1階だけでお母様の生活を完結させ、2・3階は4人家族で完結できるよう完全分離型の二世帯住宅を設計し、3階建てにすることでそれぞれの空間を確保できたと思います。
この土地でしか建てられない家が完成して大満足です!
海と護衛艦を眺められるリビング。
たっぷりの光と海風も
2階と3階のSさんご家族の空間におじゃまします。リビングから海が見えますね。護衛艦も! 呉らしい眺めですね。
海を見て育ったので、潮風を浴びないと調子が出ない(笑)。2階から見える護衛艦と海と山のコントラストを見ると落ち着きます。
リビングは海に対して平行になるよう設計しました。リビングダイニングをL字にして、リビングからもダイニングからも海が見えるようにして。方向が変わるので、違う眺めが楽しめます。
キッチンには壁があるんですね。近頃はオープンキッチンが多いけれど、返って台所仕事に集中できそうですね。
私も働いているので、いつもきれいに保つのが難しくて。手元を見られずに一人で黙々と料理をしたので、1.35mの壁を立てて独立したキッチンにしました。水の音ってダイニングやリビングにいると聞こえるのですが、壁があるから気にならないですよ。手元を隠し、遮音効果もある壁になっています。
2階のキッチンの横にはパントリーがあり、お風呂と洗面所、トイレ、ランドリールーム、寝室もあるんですね。
ずっと布団で寝ていたので寝室は畳にしました。吊り押入れの中には布団が入っています。吊り押入れだから寝室を圧迫することなく、寝るときはこの空いた部分に足がちょうど収まるんですよ。
2階から3階へ。吹き抜けになっている階段を上がると、子ども部屋と物置部屋があるんですね。
物置部屋はクローゼットにもなるんですが、実は偶然の産物でできた空間なんです。
偶然の産物?
3階建ての家は、建築基準法により非常用進入口を設けなくてはいけません。なのでS様の場合、海が見える方向に物置部屋を作り、そこに非常用進入口になる窓を設置しました。この窓がポイントです。
窓からは造船所の船が海に浮んでいるのが見え、夏の夜は呉港で上げられる花火が見えるんです!
家にいながら海も花火も見られる! だから偶然の産物なんですね。
仏壇、箪笥、テーブル。
レトロな家具と新居の融合
最後は1階のお母様の居住空間へ。キッチン、シャワールーム、トイレ、ダイニング、寝室、約3畳の仏間。1階で生活が完結しますね。だから完全独立型の二世帯住宅なんですね。
私たち夫婦が年老いたら、階段の登り降りをせずに生活できる1階に降りるつもりです(笑)。
二世帯にしてよかったと思うのは、子どもが毎朝お仏壇に手を合わせたり、おばあちゃんを気遣ってくれることです。同居する前は、お義母さんどうしているかな?と心配していたのが解消されました。
仏間があることで、毎朝必ずお母様の様子をうかがえるのですね。仏間のある二世帯の家。新築ながら懐かしさも感じます。
親戚が帰ってきたときに仏壇に手を合わせご先祖様に挨拶をする空間なので、仏間は必要でした。そして、母や祖母がずっと愛用していた大正時代の家具や習慣を引き継ぐためにも大切な部屋です。
仏間や寝室にはお母様の箪笥や鏡台、キッチンには水屋。存在感のある、上質でレトロな家具が新居になじんでいますね。
お母様が使われている家具類のサイズを測って、すべての家具が必要な場所に配置できるよう設計しました。新居であってもすべてを一新する必要はなく、愛用されている物を引き継ぐことで、今と昔が融合した空間になりました。
新しい家だけれど懐かしい家具によって、やわらかい空間になりました。仏間は私にとって新鮮でしたが、今では生活に溶け込んでいます。夫の想いが子ども達にも伝わっている、二世帯ならではの効果ですね。
引き継ぐと言えば、道路から見える庭の石積みはもともとあった垣根の石を再利用しました。無機質な石は、和風にもモダンな家にも合うんです。立て替え前の家には庭があったので、外を感じられるようプライバシーを確保した庭にしました。
新築でありながら大切な物を生かしたり、二世帯が完全に独立しても仏間でつながっているんですね。
付かず離れずの距離感を保ちながら、母の存在を感じられる家ですよ。
四角が直角の整形と違い、扇形の敷地というのは土地自体斜めなので、外観や駐車スペース、窓の位置をはじめ、お母様とご家族の暮らしなど、あらゆる部分でバランスをとりながらデザインしました。実際、海を眺めながらの暮らしやお母様との関係をうかがい、苦労が報われました!
最後に娘さん、住み心地はどうですか?
めっちゃいいです(笑)。
Data:呉市晴海町S様邸
- 家族構成
- 夫婦+子ども二人+母
- 敷地面積
- 133.15㎡(39.97坪)
- 建物面積
- 143.59㎡(43.42坪)
- 竣工
- 2023年6月16日
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